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最高裁判所第二小法廷 昭和56年(あ)1131号 決定 1982年5月26日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人堤賢二郎の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、原判決が、正当防衛の主張を排斥するに際し、被告人らの団体交渉の申入れを拒否した長崎放送局長は、右交渉申入れにかかる事項につき団体交渉適格を欠く旨判示した点が、当裁判所の判例(昭和五〇年(行ツ)第四一号同五一年六月三日第一小法廷判決・裁判集民事一一八号三一頁)に相反するというのである。しかし、本件のように、使用者側が団体交渉の申入れに応じないという単なる不作為が存するにすぎない場合には、いまだ刑法三六条一項にいう「急迫不正の侵害」があるということはできないと解するのが相当であって、同局長に団体交渉適格があると否とを問わず、本件被告人の行為を正当防衛行為にあたるとみる余地はないから、所論は、原判決の結論に影響のない事項について判例違反をいうものとして適法な上告理由にあたらない。同弁護人のその余の上告趣意は、違憲をいうがごとき点を含め、実質は、事実誤認、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由にあたらない。

弁護人井上正治の上告趣意は、憲法二八条違反をいうが、実質は単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由にあたらない。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 木下忠良 裁判官 鹽野宜慶 裁判官 宮崎梧一 裁判官 大橋 進)

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